cat-writing
人が読む日本語の文章を、AI生成と見抜かれず、
人間が書いたと受け取られる品質で書くための規範である。
適用範囲
- 使う場面: 調査への長文回答、課題レポート、報告書、解説・説明文の執筆と推敲。
- 使わない場面: コードコメントやエージェント向けドキュメント。
読み物として緩急を狙う文章では、必要に応じて
../cognitive-rhythm-writing/SKILL.md を併用する(任意)。
書く前に決めること
- 主目的を一文で言い表す。
多くの場合「問い(リサーチクエスチョン)に対する特定の回答を合理的に立証すること」である。
- 副次的目的を挙げる: 問いの背景、用語の定義、根拠の提示、評価基準の設定、関連研究の整理、など。
- 問いの一文化:
本文が答えている問いを1文の疑問文で言い表せない場合、まだ書くべきことが決まっていない。
問いが一文になれば、必要な情報(方法・結果・考察)も自ずと定まる。
- 比較軸の確保:
問いの価値は比較によって立ち上がる。
単独の対象についての列挙は、特徴も可視化できない。
別ジャンル、別年代、全体の平均といった比較できる対照を必ず用意する。
- 構成は、主目的と副次的目的に出力すべき情報を対応させ、
順序と分量(重要度が高い情報ほど広いスペース)を決めたものである。
- アウトラインには、可能なら各パラグラフのトピックセンテンス候補と、
引用・図表を入れる位置まで書いておく。
アウトラインに情報を足していって本文になるのが理想である。
パラグラフの作法
- パラグラフとは、一つの目的に対応した文章のまとまりであり、
印刷上の「段落」と厳密には同義ではない。目的が変わればパラグラフを変える。
- トピックセンテンス(そのパラグラフの目的と強調点を示す文)を原則として冒頭に置く。
強調の設計上、末尾に置くこともあるが、乱用しない。
- 一つのパラグラフに一つの主張。目的に関係ない情報を混ぜない。
- 主張はサポートセンテンス(具体例、データ、引用、機構の説明)で展開する。
- 情報の流れ:
接続詞は関係性を強調したい位置だけで使う。
「したがって」「そして」を文頭に連打する書き方は、
流れがスムーズなら不要であることが多い。
順接(だから系)と理由説明(なぜなら系)の論理方向を取り違えない。
- 情報の流れの一定性:
時間、因果、抽象度、重要度という異なる軸の順序を一つのパラグラフ内で混在させない。
時系列で書くなら最初から最後へ、抽象度で並べるなら一般から具体へ、と固定する。
文の作法
- 文長に波を作る。短文で足場を打ち、長文で流し、短文で止める。
同じ長さ・同じ文型の文が続くと、機械的で素人くさく見える。
- 受動態の乱用を避ける。できる限り行為者を主語にする。
- 文体(である調/ですます調)は指示がなければレポートでは「である調」に統一する。
- 箇条書きは定義や列挙に使う。論証そのものを箇条書きに逃がさない。
AIっぽさの排除
以下の型は、読者に「AIが書いた」と悟らせる最短経路である。使わない。
- 「重要なのは〜である」「総じて」「〜と言えるだろう」のような前置きと緩和の濫用
- 「まず〜、次に〜、最後に〜」の機械的な三段構成
- 冒頭の議題宣言(「本章では〜について述べる」)で始まる段落
- 太字、見出し、箇条書きの過剰使用
- 「掘り下げると」「多角的に見ると」「注目すべきは」のような、
中身の代わりに姿勢だけを示す装飾語
- 対句の決め台詞(「AではなくBだった」)の反復
- 全段落が同じ長さ・同じテンポで終わる構成
- 根拠のない断定、あるいは逆に全行が「〜かもしれない」で濡れた文体
主張と根拠
- すべての事実主張は、データ・文献・計算のいずれかの根拠に対応づける。
- 根拠を持たない主張は、ヘッジングで弱めるか削除する。
数字、出典、引用を創作してはならない。
- ヘッジング(断定の緩和)は根拠の強さに合わせる。
「〜である」「〜と考えられる」「〜が示唆される」を使い分け、
弱い根拠で強い断定をしない。
- 不確実性や限界は隠さず明示する。それが信頼感の源泉である。
内なる査読者
読み手(採点者、査読者、依頼者)は多忙であり、
「早く見送って楽になりたい」という誘惑から自由ではない。
書き手側にできる自衛は、読み手が読むのをやめる口実を事前に潰すことである。
石黒圭「論文の書き方 ― 査読者との対話としての投稿」
(『専門日本語教育研究』14巻, 2012)が挙げる不採択理由の6類型を、
書き手側の点検項目に翻訳すると次のようになる。
- 問い: 何が言いたいのか1文で言えるか。曖昧な論文は最初の数行で読まれるのをやめられる。
- 新味: 言っていることが当たり前ではないか。
当たり前でも、論証方法や過程に独創性があれば読ませる力は保てる。
- 先行研究・参考文献:
参考文献欄の文献はすべて本文で言及したか。
「載せておいた」文献は削る。
参考文献は引用文献であり言及文献である。
- 読み手との適合: 提出先(授業の指示、学会誌の方針、依頼者の目的)が求める視点と範囲に応えているか。過去の例やバックナンバーに目を通してから書く。
- 表現の正確さ: 変換ミス、「の」の重複、章・図表番号の飛びや重複は、日本語力以前に注意力を疑わせる。機械的に確認できるミスは機械的に潰す。
- 進め方: 分析(結果の可視化処理)と考察(なぜそうなったかの検討)を取り違えない。
この順序は「分析・考察」であり、考察には根拠(調査時の状況を示す証拠)が必要である。
形式の目安
- レポート: 序論(問いの設定と全体の予告)→ 本論(論証の連鎖)→ 結論(回答の要約と含意)。
「起承転結」の型は学術的レポートでは使わない。
- 長文の質問応答: 問いに直接答える一文を最初に置き、その後に論証と根拠を重ねる。
回答の再掲で締めない。
執筆後の自己点検
書き終えたら、次を順に機械的に実行する。
- skim test: 各パラグラフの頭の文だけを読み、議論の筋が追えるか確認する。
追えない箇所はトピックセンテンスを書き直すか、段落を分割する。
- 接続詞の点検: 一段落に順接の接続詞が二つ以上あれば、流れで代替できないか疑う。
- 流れの一定性の点検: 時系列・因果・抽象度が段落内で前後していないか確認する。
- AI語彙の検索: 上の「AIっぽさの排除」に挙げた型で本文を検索し、該当箇所を書き直す。
- 主張-根拠マップ: 各主張に対する根拠を具体的に指せるか確認する。
指せない主張は弱めるか削る。
- 内なる査読者の目: 問いを1文で言えるか、参考文献はすべて本文で言及したか、
分析と考察を取り違えていないか、変換ミスや番号飛びがないか、を順に確認する。
- 音読テスト: 声に出して読んで、引っかかる文を書き直す。